一年の終わりの天体観測とピザ

去年の終わりの出来事です。
その夜は、日本全国で月食が見られるという日でした。
普段は天体に特に興味があるというわけではない私ですが、ニュースや新聞でも話題になっていたということもあり、
その日は友人たちと一緒に月食を見てみようということになりました。

どうやら月食はかなり長い時間をかけて繰り広げられるようです。一番いい時だけを見ればいいかな、とも思ったのですが、
友人の中にかなり高価なカメラを購入したばかりのコがいて、できれば最初から最後まで、じっくり月食の写真に挑戦してみたいのだと言うのです。
さすがにその友人一人だけをマンションの屋上に放り出すわけにもいかないので、全員で友人の月食撮影に付き合いました。
もちろん私たちは誰もが、滅多に見られるものではない天体ショーに、それぞれに気持ちは高揚していたのです。
その証拠に、友人の高価なカメラの足元にも及ばないようなコンパクトデジカメやケータイのカメラでも、
できるかぎり月食を写そうと夢中になって、楽しんでいたのですから。

時間が経つにつれ、お腹も空いてきます。しかし、「全員で一旦部屋に戻って何か食べようよ」と言い出すような空気ではありませんでした。
何故ならば私たちは数時間だけですが月を見上げていたおかげですっかり、月食をできるだけ長時間見届けたい!という気持ちになっていたからです。

そこで、誰かが「ピザでも取らない?」と言い出しました。そうだね、簡単だし美味しいしそうしよう、と、話は簡単にまとまりました。
ジャンケンで負けた私がピザ屋に電話をし、部屋に戻って受け取る係になりました。
時刻はもうすぐ23時半、よりによって完全に月が地球の影に隠れる時間がもうすぐです。
私は一番いいところを見逃してしまうかもしれないという焦りと共に、ピザの到着を待ちました。

「ピンポーン」とチャイムが鳴り、やっとピザが届きました。私はなんとなく焦ってピザを受け取り、代金を支払いました。
すると、配達に来てくれた学生風の男の子がそわそわした風に言いました。
「なんか、すごいですね、月」
私は一瞬え?と思いましたが、すぐに理解しました。そうか、この子も月食が気になってるんだ、でもがんばってお仕事してるんだ…!

ピザのデリバリーの男の子なんて、所詮、赤の他人です。私にとっては彼はピザを届け、帰っていくだけの存在です。
それでも、今、宇宙で起きている壮大な出来事を通して、一瞬でも私たちは繋がっていたのだなと、心があたたかくなりました。

男の子を見送った後、私はピザを持って急いで屋上に戻りました。そして友人たちと月を見上げながらピザを食べました。
さっきの男の子との「交流」については、なんとなく、私だけの秘密にしておきました。

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